「お前らは人間じゃないと言われてるようだった」男性は避難場所のすぐ外で台風の夜を過ごした

    台風19号が来ていた12日の夜、台東区が路上生活者に対し自主避難所の利用を拒否しました。台風の夜を上野公園で過ごした男性は「私たちも人間ですよ」と話します。

    「風をしのぐために避難場所の外にいただけでも、ここは入り口だから移動してくれと言われた。お前らは人間じゃない、と言われてるようだったね。私たちも人間ですよ」

    台風19号が東京を襲った12日、上野公園で一夜を過ごした、路上生活を送る男性(79)はこう話す。

    男性が野宿をしたのは、台東区が外国人観光客や日本人の帰宅困難者が避難できる場所として解放した、東京文化会館の裏だった。

    台東区の災害対策本部は「住所がない」という理由で12日、路上生活者に対し自主避難所の利用を断った

    男性は12日午後、迫ってくる台風の夜をどこで過ごすか、他に上野公園で野宿をしている人たちと話し合い、その中で「自主避難所」という選択肢も話題に上がったという。

    「避難所に行こうか話し合ったけど、たぶんダメだろうと一人が言い出した。話し合っているうちに、上野公園から一番近い自主避難所の小学校まで歩いて行った仲間が『ダメだった。断られた』と帰って来たんです」

    男性は、ぽつりぽつりと台風の夜について話し始めた。

    日中は観光客で賑わう上野公園だが、東京文化会館や動物園の営業などが終了して夜になると、公園や付近で野宿する人々がいつも会館の屋根の下に風をしのぐために集まるという。

    男性は、台風15号の時も上野公園で野宿をしていた。15号の時は、風は強かったが一方方向に吹いていたために、どうにかしのげた。しかし19号では風が回るように吹いていたために、周りで野宿していた他の人たちと共に、避難できる場所を探した。

    文化会館の入り口付近に、塀で囲まれている箇所があり、そこに避難したという。すると移動するようにと告げられたのだ。

    「警備員もいるが、暗黙の了解のようなもので、いつもはそこに集まって寝ている。しかし昨晩は『ここは避難場所の入り口なのでここにはいないで下さい』と言われた」

    「文化会館はガラスばりで中が見える。見たときはガラガラで、ほとんど人もいなかった。風雨が強くなったら中へ、というのが普通の考えだと思うけど。お前らは人間ではないと言われているようで、非常に腹が立ったね。まともに考えて、差別だよね」

    都内でも川が氾濫し、浸水などの被害があった12日夜、台東区は区内に4カ所の自主避難所を設置した。

    加えて、交通機関が計画運休をしたために区内に留まらざるを得なくなった外国人観光客や、国内遠方からの訪問者のために、東京文化会館と浅草文化観光センターの2カ所を避難・宿泊できる「緊急滞在施設」として解放していた。

    避難場所のすぐ外で野宿を強いられた男性はこう語る。

    「最近は路上生活者だって、教会や支援施設で風呂も入っているし、綺麗にしている。でももし風呂に入っていなくったって、私たちも人間だ」

    「職業が何か、金を持っているかで判断するものじゃない。まあでもそういう考え方は行政だけじゃなくて、世間全体でも同じですね」

    今回の件で台東区役所への批判が高まる中、男性はさらに排除の動きが強まらないか、少し懸念を抱いているという。男性は滞在先を転々としており、たまに上野公園で野宿をしているが、長期にわたって同公園で野宿をする人への影響を心配する。

    「この公園に5年も10年も住んでいる人がいるんですね。上野公園は路上生活者にとって比較的やさしい場所ですけど、今回問題になったから全面的に路上生活者を追い出すとなってしまえば、また一から寝る場所を探さないといけなくなる。彼らはここにしか住むところがないんです」

    路上生活者の自主避難所利用を拒否した理由として、台東区役所の広報課担当者はBuzzFeed Newsに12日、「住所がない」「避難所は区民の方への施設」ということを挙げた。

    「住所不定者の方が来るという観点がなく、援助の対象から漏れてしまいました」と説明したが、路上生活者が避難所を利用できないという判断は、「区の決定」で「災害対策本部の事務局が判断した」とも話している。

    だが、広報担当者によると、外国人観光客や国内の遠方から来た帰宅困難者向けに解放された施設には、名前や住所を記入する「避難者カード」は入り口に設置していなかった。

    つまり、住所を確認して利用の可否を判断されたのは、路上生活者だけだった。路上生活者は、東京文化会館では、入り口の外側で風雨をしのいでいただけでも移動するように言われている。

    12日午後、上野駅付近や上野公園で路上生活者の見回りや物資配布をしていた、一般社団法人あじいるのメンバー、中村光男さんは「災害とは生存をめぐる問題です。ある特定の人を排除し、区が差別をしているということは酷すぎます」と話す。

    中村さんら、ボランティアのメンバーは12日午前、路上生活者に配る食材やタオル、着替えなどを準備し、午後に見回りと呼びかけに出発したという。

    まず上野公園から一番近い自主避難所に指定されていた小学校へ行き、職員が4人と避難者が4人いたことを確認し、駅と公園に向かった。

    避難所はガラガラで、路上生活者を断るなど思いもしなかったメンバーは、避難所の場所が印刷された地図のチラシを配って、早めの避難を促した。

    すると路上生活者の一人が「その小学校に行ったけど、断られた」とボランティアらに説明したという。実際にボランティアが区役所の災害対策本部に電話すると、路上生活者は利用できないという旨を説明された。

    「避難所の利用を断られた方は怒りをあらわにするでもなく、『いつものこと』『行政は我々には手を差し伸べてくれない』と言っていました」

    気象庁は台風19号は甚大な被害が予想されるとして、「命を守る行動を最優先に」と呼びかけ、報道機関も繰り返し「最大級の台風がくる」「できる限りの対策を」と呼びかけていた。

    そのような中で路上生活者も「あまりに風雨がひどくなったら避難所を利用するしかないんじゃないか」と心配し、中村さんたちは見回りから事務所に戻ったあと、再度、災害対策本部に電話で、警戒レベルが上がったり、避難指示が出た場合の対応を確認したという。

    すると「区で決定しているために、(台風や避難指示が)レベルアップしても決定が覆されない限り利用できない」との返答があったという。

    「首都直下型地震対策に大きな宿題」

    中村さんは長年、路上生活者の支援をしており、以前台風が東京を直撃した際には、隅田川が氾濫寸前まで増水し、ブルーシートの小屋ごと流された人をボランティアらで救ったりしたこともあったという。

    しかしその際にも都も区も助けてくれず「行政というのはこんなところ」という落胆と失望の思いが今でも残っている。

    今回も「またか」という思いはあるが、「今回の問題は大きな宿題として残った」とも指摘する。東京都が進めている首都直下型地震対策だ。

    「台風は1日で過ぎますが、直下型地震となるとそうはいきません。避難者数も大量になりますし、考えなければならない問題」

    海外では、災害の際には路上生活者に対しても駅や公共施設を避難先として解放し、ホームレスシェルターの設置を拡充させている国も多い。そんな中で東京都でこのような問題が起き、中村さんはこう語る。

    「命に対する社会のあり方が問われています」