広河隆一氏による性暴力の検証号が発売延期 被害女性の想い

    検証委員会のメンバーも公表した。

    フォトジャーナリスト広河隆一氏が創刊した写真誌「DAYS JAPAN」を発行するデイズジャパンは2月15日、最終号となる3月号の発売を1カ月延期すると発表した。

    同誌は2018年11月に休刊を発表しており、最終号は2月20日発売の予定だった。DAYS編集部に出入りしていた複数の女性が広河氏による性暴力やセクハラ、パワハラ行為を告発し、報道されたため、最終号ではその検証記事を掲載するとしていた。発売を3月20日に変更し、3・4月合併号とする。

    外部の有識者が検証

    合併号では、広河氏の問題について、外部の有識者で構成する検証委員会による報告書を掲載する予定という。

    デイズジャパンは発売延期の理由について、以下のように説明している。

    私たちは皆さまの反響を受け、最終号をどのように作っていくかを話し合い、検証委員会の報告書に加え、人権や差別をテーマに掲げている団体・個人においても不可視化されてしまう女性差別・ハラスメントの問題に取り組み、伝えていこうと考えました。

    最終号の編集委員を、これらの問題に取り組んできた方々へお願いし、発売を1か月延期することで、現在できることを見ていただく、ということにいたしました。       

    また、検証委員会のメンバーも公表した。

    委員長  金子雅臣氏(一般社団法人 職場のハラスメント研究所 代表)

    委員 上柳敏郎氏(弁護士)

    委員 太田啓子氏(弁護士)

    広河氏による性暴力やセクハラ、パワハラについては、昨年12月の週刊文春の報道後も告発が相次ぎ、労働組合・プレカリアートユニオンによる相談窓口も開設された。

    「女性を搾取して実績と言えるのか」

    大学時代に広河氏から性的被害に遭ったという女性は、BuzzFeed Newsに以下のようなコメントを寄せた。


    私自身が昨年、証言してからというもの、言葉で当時の記憶を反芻してしまったからか、フラッシュバックにたびたび見舞われ、仕事に支障をきたすほどでした。仕事先の方々にはなかなかそれが言えず、「変なものを食べてお腹をこわしてしまった」とただただ笑ってやり過ごしていました。

    私の中にはあの時、恐怖がありました。週刊文春などで記事が出て、自分たちが叩かれるのでは、という怖さはもちろん、その記事を見た、まったく違う犯罪に巻き込まれた子たちも、「声をあげたらああやって叩かれるんだ」と傷ついたらどうしよう、と思っていました。 記事が出てからもネット上の反応を見るのが恐くて、しばらく経ってから恐る恐るSNSなどを見てみると…...たくさんの方が一緒に、怒ってくれていました。

    すぐに声明を出してくださった方がいたり、影響力のある方が積極的に声をあげていたり…...「性被害に声をあげる=叩かれる」とばかり思い込んでいた私にとって、そこに広がっている光景はまるで奇跡のようでした。

    そんなことに後押しをされたこともあり、思い切って友人たちに話をすると、「実は私も過去に…...」という子たちがあまりにも多いことに驚きました。こうして深い傷を受ける方々がどうしたらいなくなるのか、ますます迷っています。

    しばらくしてから、広河氏と関係の深いジャーナリストの方が、「今回の件があってもジャーナリストとしての実績は否定されない」「広河氏の仕事の全否定は、“権力” 側の『思う壺』」という書き込みをしているのを見かけました。

    「権力」に抗うためには広河氏をつぶすな、という構造こそ、今まで女性たちの声が明るみにならなかった根幹ではないでしょうか。そして広河氏こそ、女性たちにとっては「権力」であったという視点が抜け落ちてしまっていないでしょうか。

    そもそも取材というのは一人で成り立つものなのでしょうか。新たに週刊文春に声を寄せてくれた女性は、海外取材中に被害に遭っています。女性への搾取を取材の源のひとつとして、かつそのアウトプットの過程である雑誌でも長時間労働やパワハラが横行していたのであれば、それは実績と呼べるのでしょうか?

    また、今回思い切って自分の被害を相談した人の中には、「DAYS JAPAN自体はいい雑誌だったのにね」という方がいました。その言葉をすべて否定したくはありません。でもその言葉がときに、どれくらい暴力的に相手に降りかかるのかを知ってほしいと思います。

    多くの方が声をあげて下さった反面、本人はほとんど説明責任を果たしていないことはもちろん、「DAYS JAPAN」を積極的に応援してきた方々や、彼に審査員を任せていたような団体なども沈黙をしたまま、再発防止のための投げかけをするでもなく、「自分は関係ない」という態度をとっているように思えてしまいます。

    「広河氏は酷い人だった」、「被害女性の側に立つ」と、単に手のひらを返すのではなく、自分たち自身もその権力構造の一部になっていたことを自覚できないのであれば、同様のことはこれからも起きてしまうのではないでしょうか。

    どうかこれからこの世界を目指す人たちの夢を潰さないでください。被害の実態を無視しないでください。「もう終わりにしよう」と、声をあげられない人たちのぶんまで、どうか声をあげてください。