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「悔しい。『大切な一票』と書いてあるのに…」コロナ感染で10万人が投票できず?参院選、郵便投票制度に“穴”。総務省の見解は

投票日直前にコロナに感染したことが判明し、投票に行けなかった人がいることがわかりました。実際に行けなかった人は「今まで欠かさず投票してきたのに」と悔しさをにじませました。

7月10日に投開票された参議院議員選挙で、投票日直前に新型コロナウイルス感染が判明した有権者が投票を棄権せざるを得ない状況に追い込まれていたことが、BuzzFeed Newsの取材で分かった。

コロナに感染した有権者には、郵便で投票できる「特例郵便等投票制度」があるが、この制度は「投票日の4日前」までに手続きしなければならないという時間的な制約がある。

今回の選挙の場合、7月7〜9日に感染が判明した有権者は、無症状だったとしても外出して投票するわけにもいかず、棄権するしかなくなっていた。

この期間のコロナ新規陽性者数は、約15万人。投票できなかった人は少なくないとみられ、実際に投票できなかった有権者からは「国民の権利が軽くみられている」「ネット投票にするしかない」という声が、BuzzFewed Newsに寄せられている。

特例郵便等投票制度とは

総務省によると、特例郵便等投票制度は2021年6月に施行された。

コロナ感染で宿泊・自宅療養となった人が対象で、外出自粛や隔離・停留の措置の期間が投票日当日までかかると見込まれる人が利用できる。

一方、制度を利用するには、投票日の4日前(必着)までに次のような手続きが求められる。

保健所などから交付された『外出自粛要請』などの書面と、本人が署名した請求書を選挙人名簿の登録地である選挙管理委員会に届け出る

この手続きが終われば、投票用紙と投票用の封筒が送られてくる。

投票用紙に候補者名を記載し、用紙を封筒に入れて表面に署名。コロナに感染していない友人らに依頼してポストに投函すれば投票できる仕組みだ。

請求書は各選管のウェブサイトなどからダウンロードでき、電話でも取り寄せられるという。

しかし前述の通り、この制度を利用するには、今回の選挙では7月6日必着で選管に届け出なければならない。

7月7〜9日に感染が判明した場合は制度を利用できず、外出自粛要請を無視して外出しない限り、投票できないことになる。

総務省の見解は?

ほかに救済方法はないのか。

BuzzFeed Newsが総務省選挙部管理課に問い合わせると、担当者は「現状ではこういう制度設計になっている」としたうえで苦しそうに回答した。

投票日直前に感染者となり、自宅待機ということになっているのであれば、実際に投票所に行くことをお控えいただくことになる。4日前に手続きが完了しなければ、投票に行くことは難しいかなと思う

また、手続きの期限を「4日前」としていることについては、こう説明した。

従前の、つまりコロナではない場合の郵便投票も請求期限を4日前にしている。郵便を送って、送り返して、みたいな状況になるので、そういうタイムラグをみている

記者(相本)が、「解決策はネット投票しかない気がする」と伝えると、担当者は「おっしゃっていることはよくわかります。ただ、現状は『今すぐ(ネット投票に)しましょう』という話にはなっていないですね」と話した。

投票できなかった人は約10万人?

では、全国で7月7日〜9日に新規陽性者となった人はどれくらいいたのだろうか。

厚生労働省の「データからわかるー新型コロナウイルス感染症情報ー」を見ると、新規陽性者数は、7月7日が4万7961人、8日が5万82人、9日が5万4993人となっている。

これ以外にも、手続き期限当日の6日に感染が判明し、体調が悪かったり、特例郵便等投票制度の手続きを諦めたりする人もいることが想定される。

7〜9日の新規陽性者数を単純に加算すると約15万人。「性別・年代別新規陽性者数」(週別、7月5日時点)を見ると、10歳未満と10歳代が全年代に占める割合は約30%だった。

これを当てはめて単純計算すると、新規陽性者約15万人のうち、約10万人が有権者だった可能性がある。

つまり、計算の上では万単位の有権者が、制度の問題で投票できなかったことになる。

BuzzFeed Newsは、投票日直前にコロナに感染し、今回の参院選で投票できなかったという30歳代の女性を取材した。

「子どもの頃から親が当たり前に投票に行っていたので、投票に行かないという選択肢が頭にありませんでした。意思表示として行くものだと思っています」

女性は仕事の関係で海外に住んでいたこともあるが、これまで「在外投票制度」を利用して欠かさず投票してきた。

しかし、参院選投票日の4日前(6日)にコロナ陽性が判明した。

特例郵便等投票制度の存在は知っていたが、4日前の請求が必須。「体調が悪くて6日中に手続きすることは無理だった」という。

女性は今まで投票を棄権したことがなかったため、「悔しい。国から無視されているような気がしている」と語る。

「ネット投票が導入されれば解決できると思います。実際、コロナの陽性者には『HER-SYS(コロナ感染者等情報把握・管理システム)』というシステムが使われている。令和の時代に、郵便でしか手続きできないなんてありえない」と疑問を呈した。

そして、こう話した。

「選挙ポスターには『大切な一票』と書いてあるのに、国民の権利がこんなに軽いものかと……。自分と同じ状況で投票に行けていない人はほかにもたくさんいると思う」