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「外国人留学生に毎年380万円を返済不要で支給」は誤り。「5千億円使われている」と拡散、16年前からネットに

実は、ネット上では遅くとも2005年ごろから、「中国人留学生一人につき年に380万円が支給」といういわゆる「コピペ」が拡散されている。

外国人留学生の奨学金をめぐり、1人あたり平均で「毎年約380万円を返済不要で支給している」という情報が拡散されている。

「日本には約13万人の外国人留学生がいるので、それだけで5000億円使われている」などとされているが、そもそもこのような金額が支出されている事実はない。

同様の数字は2005年ごろからネット上で「コピペ」として広がっていた。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

今回の拡散の発端になったのは、東京都・豊島区議の以下のような演説内容。11月3日にTwitterに投稿され、9万回以上再生された。

《日本人学生には約450万円貸して約600万を返済させ、外国人留学生には毎年約380万円を返済不要で支給してることは不公平そのものです! 奨学金を仕切ってる文科省の外局、日本学生支援機構はただの金貸し、日本人学生を支援する気など全くありません!》

議員は動画内で「外国人留学生に対しては学費補助、家賃補助、医療補助、お里帰りの飛行機代も出してやっている」「その年間総額は一人当たり平均380万円。日本には外国人留学生が約13万人いるので、それだけで5000億円使われている」などと主張。

「奨学金を支配している日本学生支援機構」は日本人に対しては「ただの金貸し」をしている一方で、留学生には「年間380万円、4年間で1500万円タダでくれてやっている」と、不公平を生んでいると批判している。

「Share News Japan」「政経ワロスまとめニュース」などの複数のまとめサイトが動画の内容を記事化したことで、この言説はさらに広まることになった。

TwitterやFacebookなどでの拡散を調べる計測ツール「BuzzSumo」によると、前者は1万以上、後者は7500以上シェアされている。

区議自身も10万人のフォロワーがいることなどから、特にTwitterでの拡散が顕著だ。本人がまとめサイトの記事を紹介しているツイートには、1万以上の「いいね」が集まっている。

学生支援機構「該当するものはない」

しかし、この言説には複数の誤った情報が含まれている。大前提として、日本学生支援機構(JASSO)は文部科学省の外局ではなく、主管する独立行政法人だ。

そのうえで、まず「日本人学生には約450万円貸して約600万を返済させ」ているという点について検証してみよう。

この返済金額は「上限金利」で計算されたものと同額だが、上限金利とは市場金利がどれだけ上昇しても、それ以上にはならないという数値のこと。実際の金利はこれよりも大幅に低い。

JASSO事務局も「そのような事実はありません」と否定しており、誤りだ(詳細はこちらのファクトチェック記事から)。

では、「外国人留学生には毎年約380万円を返済不要で支給してる」という言説はどうか。JASSO事務局はBuzzFeed Newsの取材に対し、これも否定した。

「当機構が実施する事業で外国人留学生へ支給している奨学金は以下のとおりであり、上記金額に該当するものはありません」


「文部科学省外国人留学生学習奨励費」(月額3万〜4万8000円、支給は1年間)

「海外留学支援制度(協定受入)奨学金」(月額8万円、8日以上12ヶ月以内)

(JASSO「日本留学奨学金パンフレット」より)


年額に換算すると、それぞれ前者が最大57万6000円、後者が96万円だ。380万円には到底及ばない数字であることがわかる。

16年前から広がるコピペ

では、この「380万」という数字は、どこから出てきているのか。

実は、ネット上では遅くとも2005年ごろから、「中国人留学生一人につき年に380万円が支給」といういわゆる「コピペ」が拡散されている。

「学費、家賃、医療費、交通費」などの合計とされるその金額は「262万円」「480万円」「500万円」と複数のパターンがある。「380万円」のコピペでは、単純計算で年14万4000円となるはずの「宿泊費補助」が144万円と誤って計算されていた。

コピペは「4年いたら、1520万円ですよ。血税で養っているのですよ。しかも、10万人で3800億円です」などという文章もセットになっており、「中国人」が「中国人と韓国人」「外国人」に置き換わるなどして、いまも広がっている。

このコピペ文の念頭にあるのは、文部科学省の国費留学制度とみられる。1954年から始まった国費留学制度は大学や大使館の推薦が必要で、複数の審査があり、採用者数も限られる。

国費留学生は各国から採用されており、中国人(国費留学生の9.5%)や韓国人(同6.5%)が特段多いわけでもない。

月額で奨学金が支給されるほか、大使館推薦の学生(公立、私立に限る)の授業料などは文科省が負担。往復航空券も現物支給される。

同省によると、かつては医療費と家賃の一部補助、渡日一時金も日本国際教育協会から支払われていたが、10年以上前に廃止され、現在は支給されていない。

1人当たりの平均は?

文科省の2021年度予算案では1万1408人に対し、計184億7700万円(奨学金、授業料、航空券代)が計上されている。

学生によって金額に差があるため一概には言えないものの、単純計算した1人当たりの平均金額は162万円だ。コピペが拡散し始めた2006年度予算を見ても、1万1783人に対し227億円、1人当たり平均193万円。「380万円」の半額程度にとどまる。

同省留学生交流室の担当者も、BuzzFeed Newsの取材に「380万円という数字の根拠はわかりません」と語る。

区議は動画内で「年間380万円、留学生全体が13万人で年間5000億円」などと述べている。

実際はどうか。2020年の留学生の総数は27万9597人。うち私費留学生が26万7630人と大部分を占め、国費留学の対象となっているのは8761人。留学生全体の3.1%だ。

上述の通り国費留学生の総数や予算総額との乖離も大きいことから、これも誤りであると言える。

こうした言説は、外国人への差別・排斥感情の醸成にもつながりかねない。拡散には注意が必要だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知しました。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

UPDATE

文科省側からの申し入れで、医療費と家賃に関する「一部補助」の表記などを追記しました。