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「緩い対策だと4月半ばに3回めの緊急事態宣言」 8割おじさん、新シミュレーションでデータに基づいた政策決定を呼びかけ

今回の緊急事態宣言は効果が出るのか意見が分かれる中、理論疫学者、西浦博さんは、「緩い対策ではすぐに元どおりとなる」として新しいシミュレーションを公開。データに基づいた政策決定を求めています。

2度目の緊急事態宣言の対象地域に1月13日、7府県が追加され、計11都府県に広がった。

新型コロナウイルスの感染者数減少に効果があるか、意見が分かれる中、京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんは同日、最新のシミュレーションを公開した。

飲食店の営業時間短縮と屋内の接触を一部削減する程度の対策で、政府の定める解除基準だと4月半ばには元のレベルに戻ると予測する。

緊急事態宣言の解除目標値をステージ3相当、東京の1日当たりの感染者数500人未満と打ち出している政府に対し、「解除までにはまだ時間がある。ぜひ専門家とみなさんで検討してほしい」とデータに基づいた政策決定を求めた。

緩い対策、解除基準では4月半ばに元通りに

西浦さんは、1人当たりが生み出す二次感染者数である「実効再生産数」について、東京が1.1の状況をベースとした上で、

  1. 解除目標が政府の定めた1日500人未満で、実効再生産数が0.8倍になるような限定的な対策
  2. 解除目標が西浦さんが提案する1日100人未満で、実効再生産数が0.65倍となるような厳しい対策

でどうなるかシミュレーションをした。

その結果、1の飲食店の営業時間短縮や屋内の接触の一部を制限した対策では、政府の定めた1日500人未満という目標を2月24日に達成する。しかし、そこで解除すると4月14日には再び宣言前と同じレベルに戻るとしている。

この実効再生産数が0.8倍になるシミュレーションは、政府の打ち出している対策を想定したものではなく、政府の現状の対策ではこのレベルのにも達しない可能性があるという。

一方、飲食店の営業時間短縮や屋内の接触が全面的に削減された場合の2の対策では、やはり2月25日に100人未満という目標を達成するものの、7月中旬まで同じレベルには戻らないと予測した。

さらに、解除後に人と人との接触が多い生活に戻る動きが強かった場合の悲観的なシナリオでは、いずれの対策でも実効再生産数が1.3倍増えて、1.43まで上がり、それが継続した場合を想定した。

その結果、緩めの対策では2月24日にいったん目標値を達成して解除しても、3月中旬には同じレベルに戻る。

西浦さんの勧める厳しい対策でも4月初旬にはまた同じレベルに戻り、それぞれ爆発的に増えていくと予測した。

ちなみに、4月の緊急事態宣言では、実効再生産数は宣言前に1.7だったのが宣言中には0.55〜0.54まで減少し、30〜35%まで減った計算となるが、「今回の宣言でそこまで減らせるかは疑問」だという。

東京五輪をにらんだ長期的な予想だと......

さらに、7月23日に開幕が予定されている東京オリンピック・パラリンピックをにらんだ長期予測もたてた。


その結果、ゆるいレベルの対策、目標値だと、開幕までに今回12月末から1月の今回も含め、4月半ば、7月半ばと3回、東京で感染者数1日1050人程度の流行の山を経験すると予測。何度も緊急事態宣言を出す事態になることが考えられるとした。

一方、厳しい対策と解除目標なら今回と7月中旬の2回で済むとした。

「緩い解除基準のシナリオだと、オリンピックまでに今回を含めて3回の流行ピークを経験することになる。しかし、厳しい解除基準にして妥協せずに感染者数を減らせば、合計2回の流行ピークで済む。緊急事態宣言の基準は長期的な見通しと共にデザインすべきだ」

そして、解除後もすぐに元通りにするのではなく、一定期間、厳しい制限を続けていくことが必要だとしている。

データに基づいた議論や決断が必ずしも行われていない

西浦さんは今回、こうしたシミュレーションを積極的に公表している理由について、科学的なデータが政治決断に用いられていない現実を指摘した。

「解除の基準は、政治と科学の交差点に相当するところだと思います。科学的な知見と社会経済的活動に十分配慮した上で感染症対策をしなければならない決断を迫られている上での接点です」

「だけど、私自身が理論疫学の専門家として今の国のデータ分析やリスク評価に関わっている中で、科学と政治の交差点に相当するところに関して、必ずしもでデータ分析に基づいた知見を事前に皆で縦覧して見た上で決断や考えが巡らされているとは限らない」

「(政府の)緊急事態宣言の解除の基準は、数値感覚を持つ自分としては耳を疑うような基準だったので、数値計算をするに至った。オープンにできればと思って公表資料の中にも入れてもらった」と話している。

さらに、経済的なダメージとの兼ね合いを考えての今後の議論のあり方としては、

「緊急事態宣言の強度とGDP(国内総生産)のロスは正の相関関係がある。経済学の先生方もGDPのロスを最小限にするために、どれぐらいの強さでどれぐらいの期間(対策を)打つべきか議論を始めている。今回の見通しを含めた上で、全部(の予測)がテーブルに出て、最適解を見つけていくのが理想像だと思う」と話した。

さらに、政治的な決断については、「今の段階では、内閣官房に(予測を)持っていくけれども、官邸には書類が届かない段階。そのシステム自体、少なくとも見てもらえる状況が、成功する事例を作った上で作っていけないのかなと思います」と政府の決断に専門家のデータを活用することを求めた。

【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授

2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。

専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析をしている。

趣味はジョギング。主な関心事はダイエット。