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HPVワクチン推進国で続々効果 日本も取り残されたくなければ政府が関与を

日本ではなんとなく不安視されているHPVワクチンですが、海外各国では接種対象が広がってワクチン不足が問題となっているほどです。このワクチンギャップを埋めるために、何が必要なのでしょうか?

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を予防するHPVワクチン。海外では、男女共にうつ国が増え、開発途上国でも資金援助でうつ国が増えて、品薄状態となっている。

日本ではこのワクチンへの不安で、公費でうてるのに接種率は1%未満となっている一方、海外ではこのワクチンを求める人が訴訟まで起こそうとする事態となっている。

この大きなギャップはなぜ起きているのだろうか。1回目に引き続き、北海道大学のがんの疫学者、シャロン・ハンリーさんの講演をお届けする。

2021年までに開発途上国でも多くの国で無料接種に

今度はHPVワクチンがどれぐらい世界で使われているか、絵で見てみたいと思います。

色を説明します。紺色が全面的に公費助成がある国です。対象年齢の人は無料でワクチンが接種できます。

緑は全国ではなく一部の地域で無料接種プログラムがあります。

オレンジが経済的に恵まれていない国で、国際協力機関のGAVIアライアンスから援助があります。ただこの場合、全国で予防接種プログラムを行う前にインフラを整えて、専門家がいることを示さなければいけないので準備期間(デモンストレーションプログラム、全国で実施する前に一部の地域で行うモデル事業)があります。

この期間が終わったら、黄色の国になります。全国で無料接種プログラムが行われることになります。

HPVワクチンの接種は2006年から始まり、アメリカとフランスで承認され、2007年ではペルーで最初のデモンストレーションプログラムが行われました。

2008年からイギリス、カナダで無料接種プログラムが始まり、ベトナム、ルワンダでデモプログラムが始まりました。

2013年には日本でも公費による無料接種(定期接種)が全国で始まりまして、多くのアジアとアフリカの国でデモプログラムが始まりました。

今年で見ると、さらにブルーの公費助成が増えています。2021年までに、経済的に恵まれていない国々でさえも、多くの国で無料で接種が行われるようになります。

経済的にワクチンを導入できる余裕のない中所得国が置き去りに

東ヨーロッパや中国は国際団体によるワクチンの援助を受けられない中所得国ですが、自力でワクチンを導入するだけの経済的余裕がないから導入できません。

アジアでは今のところ、28か国(上記の表の青の網掛けをしている国)に無料の接種プログラムがあります。インドは一部の地域で行っています。

2021年までにさらに5か国、カンボジア、ラオス、バングラデシュ、ミャンマー、ネパールの無料接種も決定されています。

さらにロータリークラブやアジア開発銀行の資金でナウル、ニウエ、サモア諸国、トケラウ諸島、トンガ、ツバル、バヌアツでも、2021年までに導入する予定です。

ベトナムではデモンストレーションプログラム(全国で実施する前に一部の地域で行うモデル事業)が終わりまして、公費助成の予算が降りるのを待っているところです。

ワクチン争奪戦となっている中国

次は、予防接種プログラムがまだない中国の例をみたいと思います。

現在、中国には公的な予防接種プログラムはありません。2020年から2024年までに国内で製造された独自の2価ワクチンを一部の地域で導入し、2025年に全国に導入することが予測されています。

ただ、中国は今、経済的に恵まれている国の一つとなり、2018年に9価ワクチンが承認されました。

でも、ワクチンが足りなくなって、3回接種ができないことになったんです。お金をたくさん出しているのに。

一番大事なのは3回目の接種で、これはそれまでうってきたワクチンの免疫反応を維持するブースターの意味を持ちます。1、2回目はプライマーと言いまして免疫をつけていくためのものです。

ウイルス感染を防ぐ抗体価を維持するためのブースターとなる、一番大切な3回目の接種ができなくなったのです。

日本の場合は、よくワクチンの安全性に疑問を持っている皆さんが製薬会社の前で横断幕を持ってデモをしますが、こちらは香港の製薬会社「MSD」の前で、「ワクチンが足りない。接種できないから早く私たちに接種できるようにしろ」と抗議をしているところです。

彼らは裁判を考え、デモも行っています。ワクチンを欲しいから裁判を起こすのです。日本とは正反対ですね。

海外から日本で余っているワクチンを接種しにくる医療ツーリズムも

さらに昨年の夏は、私のいる北大への問い合わせも非常に多くなりました。

私はボランティアで外国人の医療通訳・翻訳の団体にも入っておりまして、この団体経由で中国からの問い合わせも非常に多くなりました。HPVワクチンを接種できる医療機関を紹介してくれという問い合わせです。

日本では今、日本人女性が接種していませんから、中国人がその情報を知り、韓国でも台湾でもワクチン不足で接種できないため、日本に来てワクチンを接種したいという依頼がきます。

札幌ではできないので、東京のクリニックを紹介しています。

実は東京の一つのクリニックでは中国人が非常に多いため、台湾の看護師を常勤で採用し、中国語で中国人女性の接種を担当しています。

日本で接種する時、9価ワクチン1回あたりは3万ぐらいで、3回うてば全部で10万ぐらいかかります。かつ、旅費や宿泊費もかかりますね。

それぐらい費用をかけても、中国では多くの女性がワクチンの接種をしたいと願っているわけです。

中国で進む新たなHPVワクチンの開発

今、中国では数多くのHPVワクチンの開発が行われています。

中国で現在承認されているワクチンは世界各国と同じように2価、4価、9価ワクチンですが、イノワックス社が開発している中国独自のワクチンが間もなく承認されるでしょう。

イノワックス社のワクチンは2価ワクチンで、獲得する抗体価(感染を防衛する力)はGSKの2価ワクチンよりも低いのですが、MSDの4価よりも高いという学会報告があります。

さらに大腸菌を使って製造しますので、より安価に作ることができるワクチンです。このワクチンが承認されれば、人口が非常に多い中国でワクチンが受けられることになります。

そうすると開発途上国もこのワクチンを使うようになってワクチン不足は解消するでしょう。

中国では9価ワクチンも開発しているところで、これは第2相試験まで終わっています。また、11価、14価ワクチンも開発中です。このように、中国では多くのHPVワクチンを開発しているのです。

さらに、今年の秋にイノワックス社から非常に興味深いプレスリリースがありました。GSKとタイアップして、「多価」ワクチンを開発するという発表です。

GSKが持っている優れたアジュバント(補助剤)と独自のVLP(ウイルス様粒子)の技術が融合すると、もしかすると1回接種のみで免疫が得られる(十分な抗体価が獲得できる)ワクチンが開発されるかもしれません。

このワクチンはMSDが製造販売する9価ワクチンに対抗するものとして売り出されるでしょう。

ワクチン接種で子宮頸がんを抑え込む東南アジア諸国

最後に世界の成功例を紹介したいと思います。

最初はブータンです。

2009年に、パイロットプログラムでワクチン導入が始まりました。オーストラリアの慈善団体と製薬会社の協力で、ワクチンを無料で提供しました。

その後、対象範囲の拡大が行われます。

最初は13歳の女の子のみでしたが、2012年からは、対象年齢を過ぎた女子もうてるようにするキャッチアップも含めて18歳までの女の子の接種が行われました。

接種率は高くて9割を超え、95%ぐらいになっています。

2011年からは国のプログラムが始まりました。この国のプログラムを応援したのは、王室の皇太后です。この方はワクチンが非常に大事だとして、国としてお金を出しています。

だからブータンは2099年までに子宮頸がん根絶は可能と予測されている国の一つです。

学校での集団接種でほぼ100%の接種率を誇るマレーシア

マレーシアも2010年からワクチンの接種が始まりまして、学校単位の集団接種で13歳の女の子が対象となります。啓発が非常に上手で、ワクチンへの信頼性も高いです。

予防接種の登録制度もありますので、副反応があるかどうかはすぐ調べられます。接種率も非常に高いです。最初は2価ワクチンでしたが、2012年に4価に変わりまして、2015年から2回接種になりました。

交差反応でより多くのがんが防げますから2017年から、2価ワクチンに再変更しました。9価に変更するお金はないから、次善の策としてそうしたのですね。接種率は非常に高いです。国の政治的な関与も非常に高いです。

2015年から2回接種になりました。

コロンビアで副反応でもめた時に、マレーシアの厚生労働大臣が唯一、「ワクチンは非常に安全で、問題はないのでぜひ受けましょう」という声明も出しました。

高所得国でもワクチンを国をあげて推進

最後は高所得国です。

まず、わたしの母国のスコットランドを紹介したいと思います。

2008年からワクチン接種が始まりまして、3年間のキャッチアップ接種(接種対象の年齢を過ぎた人がうつこと)として18歳までの女の子の接種を行いました。

最初は2価ワクチンで、2012年から4価ワクチンに切り替えました。

イギリスは費用対効果を重視

イギリスはまだ9価ワクチンを導入するか決めていないです。なぜかというとイギリスでは費用対効果を非常に重視しているため、色々検討しているそうです。

もしかして女の子だけ9価にして、男の子は2価にするかもしれません。または、全員が1回目は9価をうち、2回目は2価を使う可能性もあります。まだ全員が9価を利用する話にはなっていません。

イギリスでは2014年に3回接種から2回接種になりました。費用対効果が非常に重視されるため、2017年からリスクの高い同性愛者の男性だけに無料接種を行い、今年の秋からやっと12歳、13歳の全男子の無料接種も始まりました。

イギリスでは全ての医療が無料ということで、国民の税金が使われますので、ワクチンの導入をする時に、予算の1割が啓発のために使われています。ワクチンが高いほど啓発予算も大きくなります。

医療費が無料で、税金によるプログラムとして1円も無駄にできないので、導入する前に母親と女子にインタビュー調査が行われて、どういうパンフレットが効果があるか調べました。

無料電話相談もありまして、学校で配布するリーフレットはHPからもダウンロードできます。悩み相談の窓口もあります。

ワクチン接種率の高い国は政治的な関与も大きい

政治的な関与も非常に大きくて、30代の女性の厚生労働大臣は週末に、日本で言えばイオンのような大手ショッピングモールで啓発活動を行いました。

接種率は非常に高くなっています。

スコットランドでは医療に対する個人番号もありますので、検診、ワクチン、がん登録、コルポスコピー登録(子宮頸がんの精密検査の登録制度)、これらのデータを全部、簡単に連携できます。これによってワクチンの効果も調べることができます。

ワクチンを受けていない1988年〜89年生まれの女子は、キャッチアップ接種で14歳〜18歳で接種しています。この、キャッチアップ集団で、90年から94年まで、女の子の異形成(前がん病変)がどうなっているかも調べられます。

権威ある論文誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)」に今年出た論文ですけれども、中等度異形成、高度異形成、上皮内がんが有意に減っていることが明らかになっています。9割ぐらい減少しています。

ワクチンの接種率が非常に高いので、ワクチンをうっていない人さえもウイルスから守られる「集団免疫」ができています。ワクチンを受けていない女性でも異常が統計的に意味のある差をもって(有意に)減っています。9割ぐらい、前がん病変が減っているのです。

スコットランドでは浸潤がんが減ったという報告も

キャッチアップ世代が30代に入ると浸潤がんの有意な減少が確認できると期待されます。

しかし、ワクチンの影響かどうかはまだはっきりしませんが、2017年のがん登録のデータを見ると、25歳~29歳の女性の浸潤がんの罹患率・患者数も目立って減少しています。2018年以降のデータが楽しみですね。

HPVワクチンが効果的で安全というのは世界的な合意

話のまとめです。

HPVワクチンは非常に効果的で安全だというのは世界的な合意ですね。

HPVワクチンとHPV検査も含む子宮頸がん検診は、子宮頸がんを根絶する強い武器となりますが、強い政治力も同時に必要だということがお分かりになると思います。

そして、ワクチンの供給不足、ワクチンへのためらいについても取り組む必要があるのです。

2099年までに、あるいはもっと早い時期に、多くの国では子宮頸がんを根絶できる可能性があると示されています。

日本が遅れをとりたくなければ、政府がワクチンプログラムにしっかり取り組み、WHOが目指す子宮頸がん根絶の目標のために協力するべきだと思います。

(終わり)

【シャロン・ハンリー】北海道大学医学研究院生殖・発達医学分野産婦人科学 特任講師

University of St Andrews卒業。北海道大学大学院医学研究科生殖分泌腫瘍学講座で学位取得。2013年から、同大学医学研究院 生殖・発達医学分野産婦人科学教室特任講師。女性医学、特に子宮頸がん予防を研究。専門はがんの疫学・公衆衛生学。ロンドン大学衛生学熱帯医学大学院にも所属し、ワクチンへのためらいについて研究している。