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人とのつながりは船の錨のよう 家族と広がっていく人間関係

新型コロナ禍で開かれた芸術祭「山形ビエンナーレ」で、生きることや芸術について語った詩人の岩崎航さん。連載4回目は創作に大きな影響を与えた家族や人との関わりについて語ります。

新型コロナウイルスの流行下で開かれた芸術祭「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」(主催・東北芸術工科大学)で、生きることや芸術について語った詩人の岩崎航さん。

創作に影響を与えてきた家族や人とのつながりについて語ります。

※トークは読みやすく編集を加えた上で、岩崎航さんにも確認してもらっています。

【家族・人との繋がり】
閉じた状況を開いてくれたのが家族

――岩崎さんと言えば、詩にもたくさんお母様、お父様、同じ病を持つ7つ上のお兄さん、そして家族を支えるお姉さん夫婦など、創作にも家族が大きく関わっていますね。

最初にも話しましたが、20代の吐き気地獄があって苦しんでいる時に、両親がそばにいて背中をさすってくれました。

そういう体験で感じたこと、得られた気持ちはこれまで詩にも書いてきましたし、言葉にならないものを受け取ったりもしています。それが詩の表現になったりしているわけです。

兄も同じ病を持っていて、これまで一緒に生きてきました。兄は今は病院で暮らしていますけれども、自宅で長いこと一緒に暮らしていた時期もあります。

私自身も兄もそうですが、なかなか生きがいというものを見出せなくて、苦しかった時期をお互いよく知っています。小さい時から私より7つ先輩先を行く存在として兄の存在はとても大きい。

私は詩に出会って詩を書いていくことになりましたが、兄はパソコンで絵を描くということを見出しました。本当に精神的に苦しかった時に目の前に兄がいてくれたことは、すごく私にとって大きいことです。心強い存在でした。

また私には姉もいます。姉夫婦が近くに住んでいるのですが、私が本当に困った時に、やはり最後に頼れる人です。精神的にもそうですし、私の一番弱いところもよく知っています。実際に何かあった時に手助けをしてくれるんですね。

相談にも乗ってくれますし、私にとっては姉も本当に大きな存在ですね。姉夫婦には色々助けてもらっています。

家族で助けてもらっているということは私にとって本当に大きな影響があり、本当に救いになっています。そういうものがもしなかったとしたら、このような心境で何か表現していることはなかったのではないかと思うのです。

やはり孤立してしまうと視野も狭くなりますし、閉じてしまう状況を開いてくれた助けになってくれたのが家族だったと思いますね。

広がる人とのつながり 介護や医療、仕事

――そこから、また周囲の人に関係を広げていきましたね。介助でもお仕事でも。

家族との関わりがあって、ただ、家族だけに閉じないことも大事だなとさらに思います。

以前はほぼ家族だけに介助されて生活を成り立たせていたわけですが、家族には家族の生活があります。特に両親も歳をとっているし、家族の介助でしか生きられないとは言っていられないということに気づきました。

自分自身も限られた人間関係の中で生きていくのではなく、そこから一歩出ようと考え、手始めに訪問介護を導入しました。家族以外の介助を受けることや、訪問医療や訪問看護も受け入れるようになりました。

仕事もそうですが、人との関わりがまた多く生まれてきました。

20代半ばに詩を書いていこうと思った時と同じぐらいから、人との関わりを増やしていこうというチャレンジも始めていきました。やはり人と関わって生きる、多くの人と関わって生きる、相互に影響を与えあって生きるのが人生ではないかなと思うのです。

私はこういう環境で生きてきたこともあって、限られた人間関係で生きる時間が長かった。最初は人と関わるのが怖い時期もかなりありました。

昔から考えるとだいぶん変わりました。前は知らない人に電話をかけるということだけでも抵抗感や恐怖がありました。別に怖がらなくていいのに、問い合わせ電話をすることが怖い。そこまで人を怖がっていたわけです。

だけど、少しずつ人と関わることを始めて慣れていった。人と関わることが普通になっていき、創作活動をする中で、人とのつながりが生まれることもあります。

そこで人と関わっていけば、「生活」が生まれる。より幅広く、豊かな生活が広がっていくことで、自分の固かった心がほぐれていくようになりました。それが創作にも反映され、詩にも表れてきているところがあると思います。

人とのつながりは船の錨のよう

孤立状態になってしまっていると、自分自身が浮き草のようにどこかに彷徨ってしまうことがあると思います。

人とのつながりは船の錨のようなものです。

信頼できる人間関係があると、いろんな困難な波が押し寄せてきても、つながっていることで沖に流されていかない。波に飲み込まれないためにも、そういうよすがは必要ではないかと思うのです。

人間はどんと落ち込むことがあると思うのですが、一人では踏みとどまれないような時にも、側にそういう人がいれば踏みとどまることができる。私もそういう経験を何度もしてきたところがあります。

――岩崎さんの詩も誰かの錨になっているかもしれないですね。

祈りを込めてさすってくれた

何にも言わずに

さすってくれた

祈りを込めて

さすってくれた

決して 忘れない


人人の真っ只中へ

飛び込んでゆく

それこそが

ほんとうの人生の

旅の始まり

動画作品「漆黒とは、光を映す色〜詩人・岩崎航が、生きることと芸術を語る」(9月25日配信)のアーカイブは以下で見ることができる。

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【岩崎 航(いわさき・わたる)】詩人

筋ジストロフィーのため経管栄養と呼吸器を使い、24時間の介助を得ながら自宅で暮らす。25歳から詩作。2004年から五行歌を書く。ナナロク社から詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』、エッセイ集『日付の大きいカレンダー』、兄で画家の岩崎健一と画詩集『いのちの花、希望のうた』刊行。エッセイ『岩崎航の航海日誌』(2016年〜17年 yomiDr.)のWEB連載後、病と生きる障害当事者として社会への発信も行っている。2020年に詩集『震えたのは』(ナナロク社)刊行予定。