「最高裁の中でも“男女差別“が起きている」選択的夫婦別姓、サイボウズ青野社長らが上告へ

    結婚するときに「夫婦別姓」を選ぶことができない戸籍法の規定は違憲だとして、「サイボウズ」の青野慶久社長ら4人が国に損害賠償を求めた裁判で、東京高裁は原告側の控訴を棄却した。

    結婚するときに「夫婦別姓」を選ぶことができない戸籍法の規定は、憲法に反しているなどとして、大手ソフトウェア会社「サイボウズ」の青野慶久社長ら4人が国に損害賠償を求めた裁判。

    東京高裁(小川秀樹裁判長)は2月26日、東京地裁の一審判決を支持し、青野社長側の控訴を棄却した。原告側は、上告する意向を示した。

    日本人カップルが結婚する時だけ「選べない」

    原告は青野社長のほか、関東地方で暮らす20代の女性と、東京の20代カップルの計4人。

    関東の女性は、結婚後も旧姓を使い続けることを希望していたが、現行制度では改姓せざるを得なかった。カップルはそれぞれの旧姓を使い続けるために法律婚を諦め、事実婚を選ぶほかなかったという。

    改姓に伴う精神的苦痛を受けたとして、4人は計220万円の損害賠償を国に求めていた。

    原告側は、日本人と外国人が結婚する際は「夫婦別姓」を選ぶことができ、日本人同士が離婚するときも「同姓」か「別姓」かを選択できるのに対して、日本人同士のカップルが結婚するときだけ「夫婦別姓」が認められていないのは、憲法が定める「法の下の平等」に反するなどと主張していた。

    「国会で議論、判断されるべき事柄」

    一方、東京地裁は2019年3月に原告側の請求を棄却。

    今回の判決では、日本人と外国人カップルの結婚や、日本人同士の離婚には、民法750条「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」が適用されていないだけだとして、日本人カップルの結婚とは「本来比較の対象にならない」とした。

    また、旧姓の通称使用などが認められていることから、結婚や家族に関する法律は「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と定めた憲法24条2項に「反する程度に至っていると認めることはできない」と述べた。

    さらに、夫婦の「氏」をどう定めるかは、夫婦の間に生まれた子どもの「氏」をどう定めるかなどにも密接に関係する問題だと指摘。

    婚姻制度や「氏」のあり方に対する社会の受け止め方をどう評価するかなども含め、国会で議論し、判断されるべき事柄だとした。

    夫婦別姓を求める声、国会でも

    選択的夫婦別姓をめぐっては、最高裁が2015年に、夫婦同姓を義務付けた民法の規定は「合憲」だとする判決を下した。この時も、最高裁は「選択的夫婦別姓」は、国会で話し合われるべき問題だとして議論を促していた。

    必要性を訴える声は年々高まり、全国各地で訴訟や地方議会への陳情などが続いている。

    先月22日の衆院代表質問では、国民民主党の玉木雄一郎代表が選択的夫婦別姓に関する質問をした際に、自民党の議員とされる人物が「それなら結婚しなくていい」という内容のヤジを飛ばした問題が批判を呼んだ。

    最高裁の中で起きる「男女差別」

    原告側の作花知志弁護士は会見で「(一審の)東京地裁とあまり変わらないような判決で残念」だと述べた上で、最高裁へ上告する意向を発表。

    最高裁の判事15人のうち、宮崎裕子判事と岡村和美判事の2人が女性で、いずれも旧姓を通称使用していることを指摘し、こう続けた。

    「最高裁にいる2人の女性判事さんは、戸籍上の本名ではなく、法的には根拠のない旧姓を通称使用して最高裁の判決文を書いている。15人いる判事のうち、女性の2人だけが旧姓を通称使用をしているわけです」

    「選択的夫婦別姓が認められていないから、そんなご苦労をなさらないといけない。『現行の婚姻制度は男女差別的なのではないか』という私たちの主張が、まさに最高裁の中で起きているんですね」

    多様な社会に向けた「試金石」

    「夫婦別姓」を選ぶことができない戸籍法の規定は違憲だとして、国を訴えたサイボウズの青野社長。 この問題にこだわるのは、選択的夫婦別姓が「選択肢が1個しかない社会から2個にする、多様化への第一歩になる」からと語ります。控訴棄却を受け、最高裁へ上告する予定です。https://t.co/Fde4kI0yT9

    原告を代表して会見に出席した青野社長は、「最終的なゴールは(選択的夫婦別姓が)立法されて、それによって苦しんでいる人が救われること」と述べ、この問題に取り組み続ける考えをこう語った。

    「この世の中には色んな方がいらっしゃって。結婚で名前を変えたい方もいれば、変えたくない人もいるだろう、と。どっちのニーズも素晴らしいし、どっちも実現できたらお互いハッピーだよね、と」

    「多様な個性を生かそうという社会の流れに向けて、まさに(選択的夫婦別姓は)試金石。選択肢が1個しかない社会から、2個にしようという変化が、まさに多様化への第一歩になると思っています」

    夫婦別姓が認められないことによる不利益

    夫婦別姓が認められないことで生じる負担や不利益の例として、原告側が挙げていたものの中には、次のようなものがある。

    • 知名度や信頼度を築いてきた通称は、知的財産と言える。(夫婦別姓を認めないことで)その利用を制限することは効率的な経済活動を阻害し、個人の財産権を制限する。

    • 公式書類は戸籍法上の姓(結婚後の姓)を使う必要がある。それぞれの書類について、姓についてのルールを確認しながら書かなければならない。

    • 銀行口座、クレジットカード、パスポート、免許証、健康保険証、病院の診察券などを、旧姓から婚姻後の姓に変更しなければならない。

    • 子どもの父母会などでは結婚後の姓を使うが、仕事で関係のある人からは通称としての旧姓で呼ばれることもあり、周囲が混乱する。

    • (夫婦別姓が認められていないため、事実婚せざるを得なかった場合は)税法上の扶養家族になれず、配偶者控除、相続税非課税枠などの配偶者としての税法上の優遇制度の適用がない。いずれかが入院した場合、病院で配偶者として認めてもらえない可能性がある。