「涙を堪えられない時もある」若手カメラマンが香港の"今"を伝える25枚の写真

    激しさを増す香港のデモと警察との衝突。その様子を撮り続ける若いカメラマンがいます。

    香港から中国本土への容疑者の身柄の引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の撤回要求をきっかけに、香港では市民によるデモが約4カ月も続いている。

    香港出身の若手カメラマンが、6月からデモ隊に密着し、香港の「今」を伝えている。

    これらの写真を撮影したのは、若いデモ参加者と同年代のカメラマン、チャン・ロン・ヘイさん(24)とビオラ・カンさん(33)だ。

    BuzzFeed Newsは2人に、催涙弾のためガスマスクを着けてでも、デモ撮り続ける理由と、伝えたい思いを聞いた。

    ーなぜ香港のデモを撮り続けているのですか。

    カンさん「今という瞬間を、ちゃんと記録しないといけないと思って撮っています。ちゃんと今を伝えないと、いつか歴史が書き換えられた時に、『それは間違ってます』と写真で真実を証明できないからです」

    チャンさん「撮り続ける理由は、使命感だと思います。メディアは第四権力であり責任があって、警察の職務のチェックは当然ですし、真実を伝えないと、と思っています。その中で、写真の力は大きいと信じてます。たとえ危険があっても、真相を報道することを続けます」

    ーデモにはどのような年代が来ていますか。

    カンさん「中学生や大学生が多いと思います。6月には、制服を着てる人を見かけました。仕事終わりにくる大人もいます。お年寄りもいて、特に彼らは最前線で学生たちを守るグループを作っているのを、現場では見かけます」

    チャンさん「一番若くて13~14歳の中学生くらいです。12歳が逮捕されたということはニュースにもなっていました。一番多いのは18~24歳くらいだと思います。雨傘の時より、高齢者や上の年齢層は本当に増えてます。それを見るとすごく感動します」

    「私はデモ隊と年が近いので、香港人としても、年の近い者としても、心が痛いです。撮影してる時、涙を我慢できないこともあります。デモ隊の誠実な気持ち、彼らが無情に鎮圧されることを見ると、やはり心が痛いです」

    ー写真を通して、国際社会に伝えたいことは。

    チャンさん「香港だけでは力不足のところがあります。この運動は長引いていますが、結果はまだ出せていません。香港のことを国際へ伝えたい。警察の暴力と政府からの鎮圧は、もう国際的関心持つのレベルになってます。そして、今香港で起こっていることはもしかしたら、日本や他の国でも起こる可能性は0ではないと思います」

    「日本の人々にとっても、民主と自由は当たり前じゃないと思います。日本人には今、選挙権と発言の自由がありますが、何かの瞬間に、なんらかの理由で、今ある権利と自由が奪われる可能性もあると思います。なので、是非香港への関心とともに、日本社会の問題にも関心を持って欲しいです」

    ーカンさんは日本に拠点を置いて、故郷の香港でのデモも撮影されています。日本の人々に伝えたいことはありますか。

    カンさん「雨傘運動なども撮っていましたが、今回のデモは6月から9月の間に8回くらい香港に渡航して撮影しました。日本に住む香港人の私ができることは、日本の皆様に伝えることだと思っています。日本の周辺国の韓国、台湾、香港では次から次へと大規模なデモが行なってることで、日本の人々へも刺激になるんじゃないかなと思います」

    「香港と台湾に比べてより健全な制度が持ってる日本は平和に見えて、実は社会課題がいっぱいあると思います。例えば、原発、特定秘密保護法、年金など、せっかく市民の権利が確立してる国なので、香港の状況を見て、日本国内への関心がちょっとでも増えたらと思います」

    ーなぜ香港の人々はデモに参加して意思表示をすると思われますか。

    カンさん「本当に危機がきたからだと思います。今、闘わないと、もう闘う機会すら失うことを意識しているからだと思います。そして、デモをやってる期間中に、政府と警察の理不尽さと残酷さに気づいて、もっといろんな人が参加してきたと思います」

    チャンさん「今回のデモは『何かを求める』ではなく、『何かを断る』ということだと思います。本当に望まないことを『断る』『押し返す』。反送中は香港の皆に影響があるので、今回のデモは多くの人が参加するようになりました」

    ー香港の若い人々は、中国政府や香港の独立についてどのように考えていますか

    カンさん「多くの香港人は、香港は独立してはないと思ってますが、一国両制(一国二制度)という制度は守りたいと思ってます。ですが、このデモの中で、中国政府の発言と行動などを見ると、中国政府は明らかに、守るつもりすらありません。そのような『本性』を見た後と言いますか、香港の30代以下の人たちはすでに『自分は中国人』という認識は0%になってしまいました」

    チャンさん「個人として、自分は若い世代の一人で、中国人という認識と一国両制(一国二制度)の信用度はすごく低いと思います。2012年の反国教(中国の「愛国教育」に反対するデモ)から、2014年の雨傘(民主化要求デモ)、今の反送中と、鎮圧がどんどん酷くなってきています。若い人は声を発する場所がなく、大人たちも聞こうとしないので、このような現状になっています」



    香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は9月4日午後7時、抗議デモのきっかけとなっていた「逃亡犯条例」改正案について、香港政府が正式に撤回することを、テレビで発表したビデオメッセージで明らかにした。

    一方で、デモを行う市民側は「警察と政府の、市民活動を『暴動』とする見解の撤回」「デモ参加者の逮捕、起訴の中止」「警察の暴力的制圧の責任追及と外部調査実施」「林鄭月娥長官の辞任と民主的選挙の実現」など、4点について政府に引き続き要求を続けている。

    中国建国70年の式典が行われた10月1日には、香港では大規模なデモが行われ、警察と衝突したデモ隊にいた、男子高校生が実弾で胸を撃たれ重傷をおっていた。

    カメラマンのカンさんは、こう語る。

    「この運動が始まってから、気付いたら香港へ帰って最前線で撮っています。香港警察から記者への暴力は日々増しています。日本での仕事もあり毎日は撮れませんが、カメラマンとして、できるだけ香港の歴史を未来に残せたらと思っています」