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「菅首相がうったワクチンは偽物」「ワクチンの中身は水銀」「添加物で肝臓が空洞化」は本当なの?専門家の見解は…

ネット上に拡散した情報を日米の専門家などによって運営されている新型コロナウイルス感染症やワクチンに関して正確な情報を発信するためのプロジェクト「こびナビ」協力のもとファクトチェックした。

新型コロナウイルス感染症について高い感染予防・発症予防・重症化予防効果が確認されている新型コロナワクチン。

ワクチンは現在、一部の医療従事者に先行的・優先的に接種されており、今後は高齢者や持病のある人から順に接種が進められていく。

そのような中、ネット上では様々なワクチンに関する誤った情報や不正確な情報 (misinformation)が拡散している。

BuzzFeed Newsは、日米の専門家などによって運営されている新型コロナウイルス感染症やワクチンに関して正確な情報を発信するためのプロジェクト「こびナビ」協力のもとファクトチェックした。

(1)「ワクチンの中身(に)は水銀」

《ワクチンの中身は水銀、妊娠何週目かの墜胎した子供の細胞など、怪しいのが混じってる。製薬会社は責任をとらないと言っているし、他の疾患にかかりやすくなるかも?ワクチンに科学的エビデンスがない可能性あり。それに、これから子どもを産む若い女性には特におすすめできない。》

※「墜胎」は「堕胎」(人工妊娠中絶)のつもりで書いたとみられる。

母親からこのような情報が届いたというツイートが、Twitterで6700回以上リツートされ、2万9千回以上いいねされている。

また、同様にワクチンには水銀や堕胎した子どもの細胞などが入っているとするツイートも1,500回以上リツイートされている。

前提として、ワクチンに水銀が含まれているという情報は事実なのだろうか?こびナビの回答は以下の通りだ。

「現段階で接種が進められているファイザー・ビオンテック社製、モデルナ社製のmRNA(メッセンジャーRNA)新型コロナワクチンについては『保存剤』と呼ばれる成分が含まれていません。そのため、チメロサールといった水銀を成分に持つ防腐剤も含まれていません」

「墜胎した子どもの細胞を使う」という情報やワクチン接種をすることで「他の疾患にかかりやすくなる」といった情報も事実ではないという。

また、「これから子どもを産む若い女性には特におすすめできない」とのツイートについても、健康な若い女性はワクチン接種で懸念されることはない状況だ。

なお、日本では承認されていないアストラゼネカ社製のワクチンについて、EMA(欧州医薬品庁)はワクチン接種と接種後の血栓症に関連性があるとする調査結果を発表している。

EUや英国で4月4日までに同社製ワクチンを接種したのは約340万人。

そのうち169人に脳から心臓へ戻る静脈や静脈洞がつまる「脳静脈洞血栓症」と呼ばれる症状が、53人に「内臓静脈血栓症」と呼ばれる症状が発症したことが報告されているという。60歳以下の女性でこのような症状がより多く見られる傾向にある。

これを受け、イタリアではアストラゼネカのワクチン接種を60歳以上に、スペインでは60歳から65歳に限る方針を示したほか、イギリスは30歳未満に対しては別のワクチンの接種を勧めると発表している。

【参考】「こびナビ」公式サイトでは妊娠を将来計画している、妊娠の可能性がある、妊娠している方についてのより詳細なQ&Aが紹介されている→https://covnavi.jp/category/faq_public/

(2)「ワクチンの添加物で肝臓が空洞化」

《ワクチンに入っている添加物。初のものが使われており、肝臓の空洞化をもたらすことがわかっている》

このような情報もTwitterで1,900回以上リツイートされ、拡散された。

こうした情報は事実なのだろうか? 

「ワクチンの成分はすべて公表されており、ほとんどのものは既に使用経験のあるものです。ただし、mRNAワクチン自体が世界で初めて承認されたことから、広範に投与されるのは初めてであることは事実です」

「ですが、今日までに既に世界で1億回以上接種されており、安全性は十分に確認されていると言えるでしょう」

拡散された情報では、副反応として「肝臓の空洞化」が起きるとされている。

しかし、ワクチンの開発をする中で、動物実験の場で確認されたのは肝細胞の「空胞化」だ。

こびナビの医師も次のように指摘する。

「そもそも、肝臓の『空洞化』という専門用語はありませんし、そのような概念もありません」

「肝細胞の細胞質に脂質が蓄積したり、細胞が変性することで『空胞化』という現象が起きることがあります。これは、様々な薬剤への反応や肝炎、アルコール摂取などでも生じるものです」

「ワクチンについて報告された肝細胞の空胞化は、あくまで1つの動物実験で見られることであり、ことさらに強調するものではないでしょう。ファイザー社製のmRNAワクチンに関しては肝細胞の空胞化は軽度であり治癒することがわかっています」

厚生労働省の副反応検討部会に提出された資料によれば、これらはラットを使用した毒性試験で確認されたものであり、毒性学的な問題は薄いという

(3)「吐く息の中に6倍の量のウイルス断片が凝縮される」

《ワクチンを接種した後に呼吸すると、吐く息の中に未接種者の6倍の量のウイルス断片が凝縮されることを発見した研究発表がされました。ですから周囲を守る為のワクチン接種という考えはとんでもない誤りです。》

こちらも同様に1,700回以上リツイートされ、Twitterで拡散されている。こびナビで活動する医師は次のように述べる。

「この情報は、インフルエンザワクチンを接種していない人と比較して、ワクチンを接種した人は接種後に感染した場合、気道から分泌されている物の中により多くのインフルエンザウイルスが確認されたという論文の一部のデータを用いた言説と考えられます」

「まず、『ウイルス断片が凝縮』されるかどうかはまったくわかりません。そして、基本的にこのようなウイルス量の変化があったとしても、6倍程度というのは小さな変化であり誤差の範囲です。また、ウイルス量が変化したとして、人が吐き出す息の中に『感染力』のあるウイルスが増えているという証拠はありません」

「ですから、一部のデータを曲解して導き出された誤りを含んだ解釈だと言えます」

(4)「菅首相がうったワクチンは偽物」

日本国内では一部の医療従事者に向けたワクチン接種が進められている。

そのような中、訪米を控えた菅義偉首相は3月16日、1度目のワクチン接種を受けた。

その直後から拡散されたのが、「菅首相がうったワクチンは偽物」という情報だ。

《注射器はビタミンなどの栄養剤専門のもの》

《シールで製造番号が記入されていない》

様々な理由を挙げながら、接種したワクチンは偽物であると発信する内容となっている。

こびナビの医師は「これは古典的なデマ」であると説明。

本物のワクチンにはシールで製造番号が貼られているとする主張は「事実ではない」と指摘する。

「今回のワクチンでは、ロットナンバーなどが記載されたシールはワクチンのバイアル(瓶)に貼られており、個別に使用するシリンジ(注射器)には貼られていません」

「実際に首相に接種をされた氏家無限医師は本物のワクチンを接種したと証言しています。食塩水をうっている、注射器を接種寸前に入れ替えているといったこの手のデマは、以前より他にワクチンに対しても発信され続けている、よくある言説であることに注意すべきでしょう」


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーです。

今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知しました。2019年7月からそのガイドラインに基づいたファクトチェックを実施した記事には、対象言説のレーティングを必ず記載しています。

一方、レーティングを示していない記事もあります。ある事象の「事実関係」だけでなく、その「評価」などに関する内容も含まれる時や、問題の背景を解説する記事などは、レーティングの対象とはしません。

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