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学生支援機構「450万円貸して600万返済させている」は誤り。「ただの金貸し」と議員が発言し拡散、奨学金めぐり

拡散している情報の発端になったのは、東京都・豊島区議の以下のような演説内容。11月3日にTwitterに動画が投稿され、9万回以上再生された。

独立行政法人「日本学生支援機構」(JASSO)の奨学金をめぐり、「日本人学生に約450万円貸して約600万を返済」させているという言説が拡散している。

外国人留学生への奨学金と比較し不公平だとする批判だが、この返済金額は「上限金利」で計算した場合とほぼ同額。実際の金利はこれよりも大幅に低く、誤りだ。

JASSO事務局も「そのような事実はありません」と否定している。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

拡散している情報の発端になったのは、東京都・豊島区議の以下のような演説内容。11月3日にTwitterに動画が投稿され、9万回以上再生された。

《日本人学生には約450万円貸して約600万を返済させ、外国人留学生には毎年約380万円を返済不要で支給してることは不公平そのものです! 奨学金を仕切ってる文科省の外局、日本学生支援機構はただの金貸し、日本人学生を支援する気など全くありません!》

「奨学金を支配している日本学生支援機構」は日本人に対しては「ただの金貸し」をしている一方で、留学生には「年間380万円、4年間で1500万円タダでくれてやっている」と述べ、不公平を生んでいると批判している。

「Share News Japan」「政経ワロスまとめニュース」などの複数のまとめサイトが動画の内容を記事化したことで、この言説はさらに広まることになった。

TwitterやFacebookなどでの拡散状況を調べる計測ツール「BuzzSumo」によると、前者は1万以上、後者は7500以上シェアされている。

区議自身も10万人のフォロワーがいることなどから、特にTwitterでの拡散が顕著だ。本人がまとめサイトの記事を紹介しているツイートには、1万以上の「いいね」が集まっている。

実際の返済金額は…?

しかし、この言説には複数の誤った情報が含まれている。大前提として、日本学生支援機構(JASSO)は文部科学省の外局ではなく、主管する独立行政法人だ。

「外国人留学生には毎年約380万円を返済不要で支給してる」という言説について、JASSSO事務局は「該当するものはない」と否定。

これは文部科学省の国費留学制度を指しているとみられるが、一人当たりの平均は162万円で、やはり誤りだ(詳細はこちらのファクトチェック記事から)。

では、「日本人学生には約450万円貸して約600万を返済させ」ているという点についてはどうか。JASSO事務局はBuzzFeed Newsの取材に対し、「そのような事実はありません」と明確に否定した。

JASSOの奨学金には無利子と有利子のものがある。有利子の「第二種奨学金」の金利は最新(基本月額、11月現在)のものだと、利率固定方式で0.268%、利率見直し方式では0.004%と低金利だ。

金利の高い0.268%で計算してみても、450万円を借りて、最長の20年で返済を終える場合は支払い総額は約462万円となる。

では、600万という数字はどこから出たのだろうか。実は、日本学生支援機構の「上限金利」は3%に設定されている。これを元に20年払いで計算すると、たしかに支払い総額は約600万円となる。

ただしこの3%という数値は、市場金利がどれだけ上昇しても、それ以上にはならないという数値だ。JASSO事務局によると、「日本学生支援機構が設立された2004年以降、第二種奨学金の貸与利率3.0%が適用されたことはありません」という。

サイトで確認できる2007年以降のデータでも、基本月額で最も金利が高かったのは同年6〜7月と2008年6月(利率固定式、1.9%)。

この場合でも、20年払いの支払い総額は約541万円となる。ここ7年は1%を下回り続けており、拡散されている情報は、誤りだと言えるだろう。

「日本人学生を支援する気がない」というが…

区議はJASSOについて、「日本人学生を支援する気など全くありません」とも批判している。

これに対し、JASSO事務局は「本機構では、教育の機会均等の観点から、意欲と能力がありながら、経済的理由により修学が困難な学生等に対し、学生等の自立を支援し、修学環境を整えるため、教育事業として奨学金事業を実施しております」と反論した。

JASSOは海外留学する日本人向けに給付型の「海外留学支援制度」を設けているほか、経済的に困窮する学生向けの給付型奨学金を2017年度に創設した。世帯年収に応じて学費の免除、減免や、奨学金を受けられる。

ただし、日本学生支援機構の奨学金が批判を集めているのもまた事実だ。卒業後には「借金」として月々数万円ずつの返済を求められる。給付型の利用者も、貸与型に比べれば、ごく少数だ(グラフ上)。

返済中の人は2019年度で約453万人おり、3ヶ月以上延滞をしている人は15万人あまり。平均貸与総額は344万円(第二種奨学金、大学学部学生)だ。

返済が滞り、訴訟を起こされるケースもある。減額返還制度や無利子枠の拡充のほか、勤務先が肩代わりする「代理返還」制度も始まったが、制度の是正を求める声や批判は多い。

とはいえ、今回のように誤った言説をもとに判断してしまうと、給付型や低金利の奨学金を必要としている学生が、JASSOにアクセスできなくなってしまう可能性もある。

また、外国人への差別・排斥感情の醸成にもつながりかねない。拡散には注意が必要だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知しました。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。